
Signed publicity photo of Barbara Stanwyck(wikipedia commonsより)
前回の記事ではヘイズ・コードの概要について説明しました。今回からは何回かを使って、ヘイズ・コードが厳しく運用されるようになる直前、1930年代初め頃のプレコード映画の中から面白そうな映画を紹介していきたいと思います。
今回とりあげるのは、ヘイズ・コードが強化されるきっかけのひとつになったという悪名高い1933年の映画『紅唇罪あり』(Baby Face)です。アルフレッド・E・グリーン監督作で、バーバラ・スタンウィックがタイトルロールである「ベイビーフェイス」(童顔)ことリリー・パワーズを演じています。
いったいどんな話なのか…?
『紅唇罪あり』は、禁酒法時代のペンシルヴェニア州エリーで始まります。ヒロインであるリリーは父親ニック(ロバート・バラット)が経営するもぐり酒場で働いています。この父親は14歳くらいの時からリリーに有力な顧客とのセックスを強要して自分の商売を守っていました。
そんな父親が蒸留室の爆発で死亡し、どうやって生計を立てればいいのか途方に暮れるリリーですが、酒場の顧客で唯一自分に親切にしてくれたニーチェかぶれの靴屋クラッグ(アルフォンス・エシア)から超人思想を吹き込まれます。クラッグに励まされたリリーはこれまでのように男性の犠牲になるのではなく、自分の美貌と肉体を積極的に利用することに決め、アフリカ系アメリカ人である親友チコ(テレサ・ハリス)とニューヨークに出てゴッサム・トラストで働き始めます。
出世の役に立ちそうな男を何人も誘惑してセックスで釣り、時にはウソをついたりカマトトぶったりしながら狡猾に身を守り、うまく立ち回ったリリーはやがて副頭取の愛人におさまり、豪華な部屋でチコにメイドのふりをさせてリッチに暮らし始めます。ところがリリーの前の愛人が嫉妬に狂い、副頭取を殺して自殺してしまいます。ゴッサム・トラストの頭取でプレイボーイのコートランド(ジョージ・ブレント)はリリーが一筋縄ではいかない女であることを察し、リリーに口止め料を払うのではなく、パリ支店で働かせてみることにします。
リリーはパリで出世し、それに感心したコートランドはリリーの本性を知りながらプロポーズをして結婚します。ところがゴッサム・トラストは破産しそうになり、トップ層は責任をコートランドひとりになすりつけようとます。リリーはいつものように男を捨てて去ろうとしますが、自分の本性を知りながら愛してくれたコートランドへの想いが勝り、家に帰ります。ところがコートランドは拳銃で自殺を試みた後でした。リリーはコートランドを救急車で病院に運ぼうとし、夫が助かるよう願います。救急車の中でリリーの宝石やお金を詰めた鞄が落ちて開いてしまいますが、リリーは「今はもうこんなものどうでもいい」と言います。すると瀕死だったコートランドが目を開き、持ち直します。