「セックスワーク・イズ・ワーク」
この言葉は「性労働は女性差別である。ワークと表現するなんてけしからん」という否定の言葉から「セックスワークは人の尊厳にかかわる立派な仕事」という肯定の言葉まで、多くの人からさまざまな反応を引き出し、立場の違いによる論争がしばしば巻き起こります。
どうして「セックスワークは労働である」というシンプルな呼びかけが、議論の呼び水となってしまうのか。その議論の裏側にある価値観は、一体どこから生じているのか。
2回にわたって行われた「セックスワークは社会の鏡」では、セックスワークにまつわるさまざまな疑問を、セックスワーカーの支援団体「SWASH」の代表である要友紀子さんと、女性の労働と貧困について語り続けてきた栗田隆子さんに語っていただきました。
第1回「セックスワークから考える、愛と労働の幻想」では、セックスワークをめぐるスティグマを通じ、労働や家族=家父長制に対する幻想について、第2回「セックスワークと民主主義」では、第23回参議院選挙に出馬した要さんの体験を交え、議会制民主主義の限界や、マイノリティーの政治参加にまつわる困難について、主にお話いただいています。
セックスワーカーのための協同組合を作りたい。性風俗産業の人たちの原風景になりたい。政治家の道を選択肢として考えてほしかった……という要さんの未来への提言。女性が多く就く職種が低賃金であったり、シングルで子育てできる環境が整っていない等々女性における労働問題や貧困状態を放置して、 国家による性産業の規制や禁止を行うことで根本的な解決になるのか。自己決定が自己責任にからめとれてしまい、個人の主体性が表明しづらくなっている……という栗田さんの現状に対する分析。
現場でさまざまな問題を見聞きし、相対してきたおふたりが、社会に対して投げかけるさまざまな疑義や提案は、この社会の差別や政治を考える上で非常に重要な問いを含んでいます。もしこれを読んでいるあなたが、セックスワークに何らかのかかわりのある人であれば。そうでなくとも、差別の生まれる理由や、労働環境の改善の方法、あるいは政治参加について考えたいのであれば、ぜひふたつのトークに触れてほしいと思います(企画/池田智)。

要友紀子
性産業で働く人々の健康と安全のために活動する団体SWASH (Sex Work And Sexual Health)代表。アジア太平洋地域23カ国47団体のセックスワーカー団体のネットワーク組織APNSW(Asia Pacific Network of Sex Workers)運営委員。2018年、「セックスワーク・スタディーズ 当事者視点で考える性と労働」(SWASH編、日本評論社)を共著で出版、2020年、「社会学評論」に寄稿。2022年夏、立憲民主党から参院選全国比例区に出馬し、「性産業」候補として、各地の風俗店をまわりドブ板選挙をした(17,529票で落選)。

栗田隆子
1973年生まれ。大阪大学大学院で哲学を学び、シモーヌ・ヴェイユを研究。その後非常勤職や派遣社員などのかたわら女性の貧困問題や労働問題を中心に新聞・雑誌等で発言。2007年からは雑誌『フリーターズフリー』の編集委員の一員として3号まで刊行。2008年「女性と貧困ネットワーク」呼びかけ人となる。2014年から17年まで「働く女性の全国センター」(ACW2)代表。著書に『呻きから始まる 祈りと行動に関する24の手紙』(新教出版社)、『ぼそぼそ声のフェミニズム』(作品社、2019年)。共著に『1995年――未了の問題圏』(大月書店、2008年)、『フェミニズムは誰のもの?――フリーターズフリー対談集』(人文書院、2010年)、『高学歴女子の貧困――女子は学歴で「幸せ」になれるか?』(光文社新書、2014年)など。