
2022年 ハヌカー 米ホワイトハウスでレセプション 写真:AP/アフロ
アメリカはホリデーシーズンの真っ盛りだ。
クリスマスは言うまでもなく、イエス・キリストの誕生を祝う日であり、キリスト教徒にとって非常に重要な祭事だ。3年ぶりのコロナ・フリーのクリスマス(実際は感染者数がぶり返しているのだが)を目前に、国中が浮かれている。しかし、その背後ではユダヤ教徒へのヘイトクライムが増加している。ユダヤ系憎悪の根源的な理由はキリスト教にある。
12月1日、大物ラッパーで信仰心の熱いクリスチャンであるカニエ・ウエスト(現在は “Ye” に改名)がハーケンクロイツの写真をツイートした。アメリカではハーケンクロイツは絶対的なタブーであり、ツイッターでの「言論の自由」を標榜する新CEOのイーロン・マスクでさえ、即日にカニエのアカウントを凍結せざるを得なかった。
12月14日、ニューヨークのセントラル・パークでユダヤ系の男性が何者かに襲われた。男性はヤムルカと呼ばれるユダヤ教徒の男性用の小さな帽子をかぶっていた。背後から襲われた男性は地面に倒れて手を骨折し、歯も欠けた。犯人は「フxxク・ユー、ユダヤ!」「カニエ 2024!」と叫んだとされている。カニエは2024年大統領選への立候補を表明しており、11月末にフロリダ州にあるドナルド・トランプの邸宅マーラーゴを訪れて夕食を共にした際に、白人国粋主義者で反ユダヤ教徒であるニック・フエンテスを同行させている。
12月18日、ホワイトハウス前の広場に巨大なメノーラが建てられた。メノーラは9本のロウソクを立てる独特な形のロウソク立てで、ユダヤ教の重要な祭日ハヌカを象徴する。8日間続くハヌカの初日に行われたメノーラ点灯式では、ユダヤ系である司法長官メリック・ガーランドが「私たちは一体となって反ユダヤ主義の不穏な高まりに立ち向かわなければなりません」と語った。 ユダヤ系へのヘイトクライムはカニエのユダヤ差別言動が始まる以前の2021年より増えているのだが、セレブによる度を超えた差別言動はさらなるヘイトクライムを生むと危惧されている。
翌19日にはジョー・バイデン大統領がホワイトハウスにてハヌカを祝う会を主催。1950年代に行われたホワイトハウス改修の際に保存された由緒ある木材を使った独自のメノーラが製作され、ホワイトハウス恒例のクリスマス・デコレーションと共に設置した。このメノーラは永久展示となり、これはホワイトハウス史上初のことである。
人種差別を超える宗教差別
アメリカは事実上のキリスト教国家だと言える。実際には国教の指定はなく、人はどの信仰も自由に持てるし、信仰を持たない自由ももちろんある。しかし清教徒がメイフラワー号でアメリカ大陸にやってきた時点からアメリカはキリスト教の土台の上に作り上げられていった。
時代が進むにつれて世界各国からの移民が増え、アメリカは人種民族だけでなく、信仰も多様化していった。それでも現在も米国に暮らす人の70%がキリスト教徒だと答えており、キリスト教以外の信仰を持つ人はわずか6%に過ぎない。(24%は信仰を持たない、または未回答)。
歴代大統領も全員がキリスト教徒だ。それも非カトリックが大半を占めており、バイデン大統領はケネディ大統領に次ぐ2人目のカトリック教徒の大統領になる。
政界には以前より優秀なユダヤ系の人材が少なからずいるものの、現在に至るまでユダヤ系の大統領は存在しない。米国初の黒人大統領(バラク・オバマ)はすでに誕生し、2018年の大統領選では女性(ヒラリー・クリントン)が民主党の大統領候補となった。クリントンは選挙人制度ゆえに敗退したものの、得票数では対立候補の白人男性(トランプ)を上回っていた。オバマもクリントンもクリスチャンであり、少なくとも政治の場面では宗教差別が人種差別、女性差別を上回っていると言えるのかもしれない。
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