黒人高校生の「コーンロウ」を考える〜今の日本に必要な多様性とは

文=堂本かおる
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GettyImagesより

 先日、姫路市のある県立高校の卒業式にコーンロウと呼ばれる髪型で出席しようとした男子生徒が、学校側によって会場の2階席に「隔離」されるという出来事があった。男子生徒はアメリカ黒人の父と日本人の母を持つミックスで、コーンロウは黒人の伝統的な髪型のひとつだ。

 毎日新聞が第一報を報じたこの件はアメリカ、イギリス、アフリカなど諸外国のメディアも伝え、日本国内では激しい議論を呼んだ。主に「黒人伝統の髪型を否定するのは人種差別」と、「校則は校則。事前に学校側に相談することなくコーンロウにしてきた生徒に落ち度がある」の2派に分かれた。「校則違反にしても卒業式に出席させないのはやり過ぎ」とする意見もあった。

 コーンロウとは髪を頭の形に沿って固く編み込む髪型を指す。編み方のパターンはほぼ無数にあり、付け毛を加えて肩や背中に垂らし、女性であればビーズなどヘア・アクセサリーを加えることもあるが、生徒は地毛を額から首筋までまっすぐに編む、最もシンプルなスタイルのコーンロウだった。

 コーンロウはアフリカ発祥の髪型だが、奴隷制によってアフリカ黒人がカリブ海諸島や北米大陸に強制連行されたことによって、それぞれの地域でも定着した。コーンロウ Cornrowという名称は英語で、これは編まれた髪を、奴隷が働かされたトウモロコシ(corn)の畑の畝(row)になぞらえたものだ。カリブ海ではCanerowとも呼ばれ、こちらはサトウキビ(sugarcane)の畑の畝に由来する。

文科省による多様性の周知を

 普段はコーンロウではなかった生徒が卒業式にコーンロウを結った心情や、たとえ校則違反であったとしても、やり直しのできない卒業式で同級生たちから引き離し、「名前を呼ばれても返事をしないよう求めた」という学校側が下した「処罰」の根拠はどちらも直接、当事者に尋ねる以外に知ることはできず、ここでは触れない。しかし近年、日本に増えている「海外ルーツの子供たち」への対応法を考える必要がある。

 出入国在留管理庁によると、在留外国人(中長期在留者+特別永住者)の合計は現在、約300万人(日本の総人口の2.4%)となっている。この数値は外国籍者のみの集計であって、今回の男子生徒のような日本国籍の「海外ルーツの子供たち」の数は不明だ。

 同様に日本国籍者の数は含まれていないものの在留外国人の国籍別データを見ると、人口の多いトップ10カ国は中国、ベトナム、韓国を始め、ほとんどがアジアの国で、非アジア国はブラジル(7.0%)と米国(1.9%)のみ。国籍と人種は必ずしも合致しないが、日本に黒人(または黒人ミックス)、白人(または白人ミックス)の人口が極端に少ないことがうかがえる。

 この人種構成比ゆえに、黒人や黒人ミックスの生徒たちの毛質は、どうしても目立ってしまう。旧来の日本人の多くが日本での圧倒的多数派である直毛を毛質の基準と捉えているため、黒人の縮毛を「珍しいもの」と感じる。そこから「ボサボサ」「チリチリ」、果ては「爆発している」といった形容がなされる。また、日本で一般的な髪型は直毛ゆえに可能なスタイルであり、黒人の毛質では不可能であることに思いが至らない。つまり黒人の子供たちは友だちからはからかわれ、教師からは校則の名の下に日々、理不尽を強いられることとなる。

 そこで提言だが、文部科学省は黒人を含む、あらゆる人種民族の毛質・肌質、文化の特徴などを生徒と保護者に伝えるためのガイドブックを作り、海外ルーツの子供が多い学校にはインストラクターを派遣し、多様性の実質的な面を学ばせる機会を作ってはどうだろうか。黒人、白人だけでなく、アジア系にもさまざまな外観と文化を持つ子供たちがいる。そして、どの子供も日本で生まれ、または育つ日本の子供たちだ。旧来の日本の子供たちに「日本人」の定義がどんどん広がっていることを実感させる意味も込めて。

アメリカとアフリカ

 今回のコーンロウの件について、メディアやSNS上に多くの意見があふれた。中でも際立っていたのが、日本に住む当事者(黒人、または黒人ミックス)の人たちの声だ。日本には数少ない当事者が声を上げることは非常に有用だ。

 ただし、気になることもあった。日本に住む黒人または黒人ミックスの人の多くはアフリカ諸国系であり、今回のコーンロウの男子生徒はアメリカ系であるということ。同じ黒人といっても祖国によって文化は大きく変わる。あるナイジェリア系の著名人は、自身はナイジェリアで育った時期もあり、祖国では男子生徒が卒業式にコーンロウで出席することはあり得ないと語っていた。

 一般論ではあるが、アフリカ諸国、カリブ海諸国はアメリカに比べると学校での規律が厳しい傾向にある。対してアメリカは生徒の権利を尊重し、かつ自己主張をよしとする風土であり、これも一般論になるが公立校での服装にまつわる校則は極めて緩やかだ。

 ニューヨーク市の教育庁の公式サイトには、服装規定について以下の説明(抜粋)がある。

・生徒には、危険な服装、教育・学習過程の妨げとなる服装、教育庁の差別禁止方針に違反する服装を除き、自分の服装を決定する権利がある

・各学校が服装規定を設定する場合(中略)アイデンティティに基づくニーズに合致した衣服を着用することや、これらのアイデンティティと密接に関連する地毛やヘアスタイルを維持または着用することを禁じてはならない。

・服装規定では、以下を許可すべきである:宗教的な行事や障害のために着用する頭髪。ヘッドスカーフ(女性イスラム教徒)、ドゥラグ(黒人男性が着用する薄い生地の頭髪保護帽子)、ビーズなどのヘア・アクセサリー(黒人女性がブレイズの髪に着ける)、ショートヘア、ロングヘア、ロックス(ドレッドロックスを近年はロックスと呼ぶ)、ブレイズ(コーンロウも含まれる)、ツイスト。

筆者注:日本では馴染みのないヘア・アクセサリー類について(伝統的には女性または男性用)と注記を入れたが、教育庁は性別による着用物の指定を禁じている。例:「男子がスカート、アクセサリー、またはマニキュアを着用することを禁止するという校則を作ってはならない」

 つまり、ニューヨーク市内の公立高校に通う黒人またはラティーノの生徒であれば普段からコーンロウはまったく問題がなく、卒業式にも参列できる。

 テネシー州議会議員ジャスティン・ジョーンズ(白のスーツ、ポーニーテール)、ジャスティン・ピアーソン(グレーのスーツ、アフロヘア) 共に20代で州議会議員となった2人は同州の銃規制法への抗議運動を行い、共和党議員たちによってほぼ違法に議席を剥奪された。しかし市民の支援によって議席復活し、4月24日、バイデン大統領にホワイトハウスに招かれた。

黒人の髪型を守る「王冠法」

 米国内にはほぼ白人のみの地区や学校も少なからずある。そうした地域では日本と同様に黒人の髪への理解が進まず、新学期には毎年のように問題が起こっていた。新たに入学した「ほぼ唯一の」黒人生徒の髪型を学校側が校則違反とし、「ブレイズを切るまで登校不可」などとし、メディアが報じて今回のコーンロウの件のように議論が起こった。

 職場でも黒人特有の髪型は「プロフェッショナルに見えない」などと言われ、特に女性は縮毛矯正やウィッグによる直毛スタイルに変えるよう注意を受け、解雇も起こっていた。この事態を防ぐために現在は多くの州で、黒人の毛質に由来する髪型を理由に差別を行ってはいけないとする法律「クラウン(王冠)法」が作られている。まず最初にカリフォルニア州、続いてニューヨーク州で制定された後、ニュース番組の黒人キャスターやコメンテイターにナチュラルヘア(縮毛矯正をしない地毛を活かした髪型)が増え、今はバイデン政権のホワイトハウス報道官カリーヌ・ジャン=ピエールもナチュラルヘアだ。

ホワイトハウスで定例記者会見を行うカリーヌ・ジャン=ピエール報道官

 こうした髪型を奇異、もしくは職場や公式な場にふさわしくないと感じたり、「ファッション的」、男性の場合は「やんちゃ」などと感じるとしたら、それは偏見であり、ステレオタイプと言える。そうした偏見やステレオタイプは正しい知識を得ることによって払拭できる。とは言え、各学校の教職員が独自に知識を得ることは難しく、やはり文科省主導のシステム化が待ち望まれる。文科省の仕事とは、すべての子供たちを健やかに教育し、育てることなのだから。

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