『転職の魔王様』 女性の自己犠牲を美談にしないキャラは信頼できる

文=西森路代
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 前回は『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ)の一話を見て、主人公の向井くんのことを「『普遍的な家族像』を手に入れたいと思い浮かべながらも、それが自分の本当に欲しいものなのかどうか、わからないと思っている」と書いた。

「ずっと守ってあげたい」「守るってなに?」 『こっち向いてよ向井くん』に書かれていたもの

7月12日 ねむようこ漫画原作のドラマ『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ)が始まった。スポットCMを事前に見たら、赤楚衛二演じる主人公の向井くんが、…

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『転職の魔王様』 女性の自己犠牲を美談にしないキャラは信頼できるの画像2 ウェジー 2023.07.14

 7月17日から始まった月曜10時のドラマ『転職の魔王様』(カンテレ)もまた、ヒロインが向井くんと同じように「自分の本当に欲しいもの」や「自分がどうしたいか」がわからない人物像になっていた。

 このドラマは額賀澪の同名小説が原作となっている。主人公の来栖嵐(成田凌)は、人材会社「シェパードキャリア」のキャリアアドバイザー。求職者に対しても辛らつなことをズバズバ言うことから「転職の魔王様」と呼ばれていて、足が不自由で杖を持っている。

 彼の元に未谷千晴(小芝風花)が相談にやってくる。実は千晴は「シェパードキャリア」の社長の落合洋子(石田ゆり子)の姪っ子で、新卒で働いていた広告代理店でパワハラにあって、次の職を探していたのだった。

 この千晴が、見ていてこころもとない。いつもビクビクしていて、自分の意志もない。そこを来栖に指摘されることもしばしばだが、一話では、彼女にパワハラを働いた元上司をやりこめて終わった。そして千晴はしばらく「シェパードキャリア」で働くことになるのだった。

 二話にも千晴のように「自分がどうしたいか」がわからない求職者がやってくる。宇佐美由夏(早見あかり)は新卒では正社員になれず、派遣社員として働き、10年間、派遣先を転々としてきた。同僚が転職エージェントで職を探しているという話を聞き、自分も「なんとなく」正社員を探そうとしているのだった。

 しかし、これは派遣をしていた自分にも感覚がわかるが、派遣社員から正社員になるのはたやすくはなく、未経験の仕事に就くのはもっと難しい。そのうえ美由夏は、結婚間近と思っていたフリーランスのデザイナーの彼氏にも「結婚を考えたとき相手も非正規社員だと不安だなと思っちゃって。その辺、妥協したくなくって」と言われてふられてしまう。

 一時は、「妥協」してそこまで関心のない職種で正社員の内定を得るが、彼氏と別れて一人で生きていくには年収が心もとないその会社に入るべきか悩み、千晴や来栖に対して「このままじゃ一生、人並みの幸せに届きません、どうすればいいですか」と訴えかける。来栖は「誰かに決められた正解はあなたの正解じゃない」「自分の意志で決めてください。大人なんですから」と突き放す。由夏は自分がどうしたいかについて向き合うのだった。

 この回、由夏のパートだけでなく、やっぱりまだどこか、人のことを気にして動いている千晴のパートも面白い。

 二話の冒頭、千晴はまだこの会社で下っ端である自分には、これくらいしかできないからと、誰よりも早く出社して、ごみをまとめ、社員たちのデスクの片づけをしたりする。またあるときには、徹夜をして由夏の転職先のリストをまとめる。同じ日にも、昼休みを返上してリストを作り直す。

 正直、このような千晴の頑張りっぷりを見て、このドラマがこの千晴の頑張りを美談とするならドン引きだと思ったが、ドラマの最後に来栖が覆してくれた。

 彼は千晴に「自己犠牲でしか自分の価値を見出せてないんじゃないですか?」と言い、幽霊残業をしたり、朝早く来てオフィスの掃除して全員のデスクを水拭きしていることを指摘し、「俺は上司としてそんな自己犠牲、一切求めません」「人が喜んでくれることや望むことをするのではなく、自分の本音や望みを知ることのほうがずっと大事です」と伝えていた。

 来栖、信頼できるキャラクターである。

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