『マルコポロリ』については初めて取り上げるのかもしれない。関西テレビで放送中のバラエティで、東野幸治の個人的な興味が番組に活かされていて、東野自身も東京にいるときより芸人たちと絡むのが楽しそうで意気揚々としているというか、目が爛々と輝いている感じがある。
フィーチャーされる芸人も、芸能界をストレートに大活躍しているという人たちではなく、芸能界の波に100%乗れているわけではない人が多く、そういう人たちへの関心(ときに下世話なものもあるが、決して突き放しているわけではない)から成り立っている番組という気がする。
今回は「お前ら、何しに東京行ってん、SP」ということで、最近上京したばかりの芸人であるガクテンソク、マルセイユ、エルフのはる、そして三浦マイルドが出演していた。
面白かったのはガクテンソクのVTRで、「コピーライターの養成塾で、自分たちのネタがどうやって作られたかを、動画を見ながら解説する営業の仕事」が入ってきたり、ゴルフができると言っただけで、二日後に先輩の陣内(智則)とのゴルフの仕事が入ったりと、謎の細かい仕事が舞い込んでくると驚いていた。
対照的に、ロングコートダディ、シカゴ実業、ニッポンの社長、マユリカ、紅しょうがなどと共に上京したマルセイユは、東京進出直後に10日間の休みがあり、コンビ間でそのことへの受け止め方が違って戸惑っているという。別府(貴之)は宮崎の実家に帰り、ラーメンを食べ歩くなどの東京観光を楽しんでいるが、相方の津田(康平)はその休みに戸惑っていた。
ガクテンソクは、千鳥のノブの家にも招かれたそうで、玄関がどこまでも続き、リビングが広すぎて、芳香剤(ディフューザーのことだろう)に刺さっている棒が長く、すすきのようだったと語っていた。
東京進出には光もあるが、反対に影もある。2013年のR-1グランプリで優勝した三浦マイルドは、そんな東京で生き抜く秘訣を伝授する。
築18年、1K6万円のアパート、風呂トイレ別のアパートに住み、ほぼ毎日オフだという。見たところ、この値段でそこそこ清潔でよい物件を選んでいるなと思ったし、朝起きたらストレッチをしたり、暇な時間を使って、新聞を読んだり英語を勉強したりしているという。
しかし、「自分みたいなもんが」と言ってエアコンをつけずに部屋にいて(熱中症は気を付けないといけないと思うが)、お昼はめざし一匹とブロッコリーと梅干のお弁当を作って公園に食べに行っていた。自転車で花屋に行き、三本の花を買い、部屋に飾り、夕方まで眠ると、3軒のスーパーを自転車で巡って、安くなった食材をゲットし、自炊しておいしそうに食べていた。
東野は「『ザ・ノンフィクション』やん!」とつっこんでいたが、東京にはこんな暮らしをしている人のほうが多いのではないかとも思えた。たぶん、これからはもっとそうなっていくだろう。自分も少し仕事が入らない時期が続くと、インボイスのこともあり、心配になることもある。
三浦に密着しているディレクターが「東京来てよかったですか?」と聞くと、三浦は「めっちゃよかったです。生きてるなって感じがしますね」と言いながらも「月に15日、いや10日は働きたい」「そうでないと社会に参加している感じがしない」と言っていたのが、刺さった。
その10日足らずの社会参加、彼にとっては芸人として表現するということは、地方ではなかなか得られないのかもしれない。最近は、「住みます芸人」のように、地方の仕事を求めて移住するケースもあるが、それは一組、二組だからこそ成り立っているのである。
東野は、「社会って言われてもわからへん!」と面白くつっこむが、三浦マイルドは、『マルコポロリ』にしか呼ばれないし、この番組で実績を残しても、ほかの番組には呼ばれないという。
東野は「社会」と言ったが、こういったリアリティはこの番組以外のバラエティは求めていないということだろう。下世話だが、なんとなくこの番組がほかとはあきらかに違っていて、毎回見逃せないのはこういうところなのだと思う。
三浦は番組の最後に「苦しいことがあるかもしれないけれど、絶対に泥棒だけはするな」と言っていたのが心に響いた。当たり前のことだけれど、それくらいギリギリの状況になることはあるだろうと思うからだ。
実は、番組の中で、パンチラ喫茶で切れたという、少しミソジニーが感じられる発言もあったのは気になる。パンチラ喫茶の子も、エピソードを聞いていると、事情もあって同じように社会の中で苦しい想いをしている子なのだから、そこで敵対せずに共感していく道があればいいのにとは思った。
こういう見えにくい人がたくさんいて、そんな中でも腐ることなく生きていく姿を見せるということは必要で、男性のそんな物語というと、映画にもなった『俳優 亀岡拓次』くらいしか思い浮かばないのだった。